音律の比較 フォルダー「正弦波1本による音階」 ●取り上げた音律について (各音律の説明は,「付録D.2.3」を見ていただきたい.各音律について,長調の主音「ド」を基準とした 白鍵音の周波数比をこのフォルダー内の「音律表.xlsx」に赤字で示しておきます. 具体的な周波数はこれに基準音「ド」の周波数264を掛ければ得られます. 「レ」については,純正律だけ2通りあることを示してあります. 純正律以外の音律はこの問題を解決するためにあると考えても構いません. 正弦波1本だけの音による音階と,高域減衰型の8成分調波合成音による音階を置いてあります. それぞれ,各音の持続時間が立上り立下りを含めて0.5秒のものと5秒のものに分けてあります. 以下の音律についてそれぞれ全音階で1オクターヴ分(8音)を作ってあります. 例えば持続時間が0.5秒のもののファイル名は 12平均律 scale_H1_E12.wav 53平均律 scale_H1_E53.wav 純正律 scale_H1_Just-Int.wav キルンベルガー音律 scale_H1_Kirnberger.wav ミーントーン(中全)音律 scale_H1_MTone.wav ピタゴラス音律 scale_H1_Pytha.wav ヴェルクマイスター音律 scale_H1_Werckmeister.wav ヤング音律 scale_H1_Young.wav としてあります. ファイル名の中の「_H8」は,音の構成成分が8本であることを表わします. ファイル名に「_H1」が入っているファイル,あるいは「_H8」とも「_H1」も入っていないファイルは 構成成分が基本波だけのものです. ファイル名の'scale'のうしろに'5'が付いているものは音階各音の持続時間が5秒で, ついていない音は0.5秒です. (5秒はうなりを聴くため,0.5秒は音階として聴くための長さです.) 音律名は次のように略称にしたファイルもあります. Equal-12 → E12, Equal-53 → E53, Just-Intonation → Just-Int, JI, Pythagoras → Pytha, Kirnberger → Kirn, Meatone → MTone, Werckmeister → Werck ●ファイルの説明  各音律と純正律音階との各階名音の高さの差をビートを「ビート音階」で比べることができます.  これは2つの音律(一方を基準として対象音律を比べる)の,オクターヴ番号で4の音域の鍵盤上 の対応する白鍵音同士を同時に鳴らして,周波数差があればそれをうなりとして聞くものです. 各音が基本周波数成分だけのものと,8本の調波成分から構成されているものを用意しました. フォルダー「正弦波1本による音階」は,各音が音律で規定される基本周波数成分だけのものです. これは,基本波による音律の差をうなり(波形包絡の変化の速さ)によって図示するためのものです. フォルダー「8成分調波合成音による音階」は,各音が,高域減衰型の調波合成で作られたものです. これは現実の音に近づけるように高調波間の多重うなりを実現するものです. 周波数特性は,高調波番号が1増えるごとに振幅が半分になる(パワーで6dB落ちる)ようにしてあります. 8成分の調波構造音は,高調波成分間のうなりの高調波間の多重うなりを実感するためのものです. 「8成分調波合成音による音階」のファイル名は「H8」を含んでいます. 「正弦波1本による音階」のファイル名には後に極力「H1」を記入しましたが,抜けているファイルもあります. 各音の長さが0.5秒のもの(オクターヴ8音で4秒)と5秒(オクターヴ8音で40秒)のものを用意しました. 5秒のものは単位時間あたりのうなりの回数を数えられるようにするためで,音階の違いを感じるには 1音あたり0.5秒のファイルの方が聞き取りやすいと思います. ●聞きとっていただきたいこと 音階を個別に聴いて誰でも明確にわかるのは,ミーントーンの最後の「ド」が低いことくらいです. 普段聴き馴れている平均律に近い音律に比べて,純正律の「ミ」が少し低いことが個別の音階を聞いただけで 分かる人は,よほど音高判断能力の高い人です.  正弦波1本だけによる「音階1成分5秒」を見ると,下の「ド」は全音律で264Hzにしてあるので どの音律でもうなり(ビート)は起きていませんが,その他の階名では音律によってビートの様相が 異なることが分かります. (振幅変化の速さを聞いてください.波形包絡を図にすると,初期位相差によって形は様々に変わります.)  ピタゴラス音律では5度を3/2でとっていくので,「ソ」と「レ」までは純正律と一致しますが, 「レ」の5度上の「ラ」からはズレが生じ,上の「ド」は周波数比がピタゴラスのコンマだけ 2からズレます.  5度を少し狭くすることによってピタゴラス音律の「ミ」の純正律からのズレを修正したミーントーン 音律では「ミ」は改善されていますが,5度を狭くし過ぎているので,「ソ」にズレを生じ,上の「ド」の 周波数比が2よりも低くなって,上の「ド」でうなりが生じています.  キルンベルガー音律ではミーントーン音律でまずかったオクターヴの周波数比を2に改善していますが, 「ソ」のズレが解消されていません.  ヴェルクマイスター音律ではオクターヴと「ソ」と「レ」は純正律と一致していますが,再び「ミ」が 外れてしまっています.  ヤング音律はオクターヴの周波数を2にして,ズレをその他の音にほぼ均等に割り振った感があります.  12平均律は「ソ」が純正律よりもわずかに低く,「ミ」が純正律よりもちょっと高く,「ラ」と「シ」 の純正律からのズレが大きいです.  53平均律はオクターヴの周波数比が2で,「ソ」,「ファ」,「レ」がほぼ純正律と一致し, 「ミ」もかなり近く,「ラ」と「シ」だけがほんの少しズレているということがわかります. 「うなり」についての補足的な説明を「D-4 補足」に置きましたので,参考にしてください. 内容は,和音の転回のうなりへの影響,ならびに 重ね合わせる2音の時間差(特に同一周波数の場合の始点での位相差)のうなりへの影響 などです.